今ネットやTVでニースになっているホットな話題の養殖鯛について解説してみたいと思います。
最近巷ではコロナ禍の影響で「養殖真鯛の出荷激減!」とか「愛媛、三重の養殖業者大ピンチ!」などの見出しがネットニュースやTV報道で取り上げられています。
おめでタイ行事が減少… 愛媛のタイ養殖業者が大ピンチ
朝日新聞DEGITAL
新型コロナウイルス感染拡大で、買い手である飲食店が休業や営業時間を短縮するなどして、養殖魚の出荷量は減少している。エサ代が経営を圧迫したり、新たな稚魚を育てられなくなったりしたなどの課題を抱える
日経新聞.com
大きな原因はコロナ自粛の影響で外食需要が激減したということです。
目次
外食需要が減ると養殖鯛業者が悲鳴を上げる!
外食需要が減るとなぜ養殖真鯛の出荷が減るかというと、
外食というのはレストラン、寿司店、割烹、居酒屋などを言いますがこういうところは鯛を使うメニューがあると何がなんでも鯛を準備しないといけないので乳化の不安定な天然物でなく安定して入荷する養殖物を好んで使います。
アニサキス などの寄生虫の問題も考えてというところもあります。養殖物は餌など管理されているので天然物に比べて寄生虫がつきにくいということはあります。※寄生虫が全くいないわけではありませんが
今回のコロナ禍では緊急非常事態宣言もされ外食関連のお店が自粛を余儀なくされたのでこういう結果になるのは想像しやすいところだと思います。
養殖真鯛の県別出荷ランキング
せっかくなのでこの機会に養殖真鯛というものをもっとよく調べてみたいと思います。
県別に年間出荷数量をわかりやすいように県別でランキングにしました。見てみましょう。
まず、全国の総出荷量は62,000tです。
- 第1位 愛媛県 ・・・ 35,500t
- 第2位 熊本県 ・・・ 8,300t
- 第3位 高知県 ・・・ 6,300t
- 第4位 三重県 ・・・ 3,800t
- 第5位 長崎県 ・・・ 2,000t
出典:農林水産省 海面漁業生産統計調査 海面養殖業都道府県別魚種別収穫量(令和元年)
海面漁業生産統計調査の概要についてはこちら→ https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/gaiyou/index.html#3
養殖業とあって比較的暖かい四国、九州地方が多くなっているようです。
愛媛県が養殖真鯛の年間の取扱量が圧倒的に多いということがこの資料でよくわかりました。
養殖業魚種別年間収穫量
ちなみに養殖鯛がいわゆる養殖物でどのくらいの割合を占めているものなのかも気になりました。魚種別の年間収穫量も一緒に確認しておきましょう。
まず、海面養殖業全体でいうとこんな感じになっています
- 魚 類計 ・・・ 247,300t
- のり類計 ・・・ 251,200t
- 海藻類計 ・・・ 345,500t
- 貝 類計 ・・・ 305,500t
- 真珠 計 ・・・ 19,200t
- その他 ・・・ ***t
- 総計 ・・・ 912,400t
さらに細かく見ると、
- ぎんざけ ・・・ 15,900t
- ぶ り類 ・・・ 135,600t
- まあじ ・・・ 800t
- しまあじ ・・・ 4,400t
- まだい ・・・ 62,000t
- ひらめ ・・・ 2,000t
- ふぐ類 ・・・ 4,100t
- くろまぐろ・・・ 19,600t
- ほたてがい・・・ 143,000t
- かき類 ・・・ 162,100t
- くるまえび・・・ 1,400t
- ほや類 ・・・ 12,500t
- こんぶ類 ・・・ 32,600t
- わかめ類 ・・・ 44,600t
- もずく類 ・・・ 16,500t
こうやってみるとわかりやすいですね。
圧倒的に海藻類が多いですが養殖真鯛は養殖さかなでいうとぶりに続いて2番目に出荷されているということになります。
養殖真鯛の出荷サイクル
この養殖真鯛の需要減によって養殖真鯛業ではどのような問題を起きているのでしょうか?
そもそも出荷できないと死んでしまうリスクが高まって困るということはわかります。また活かし続けると大きくなり重量も増えて値段が高くなり引き受けられにくくなるというのもあります。さばくのも大変になるので適当な大きさのうちに出荷したいわけです。
さらにどのような問題出てくるのでしょうか?
注目はこの記事です。
「場所によって水温に違いがある宇和海全体で養殖しているため、どの時期でも決まったサイズのタイが出せる。それが愛媛県の強み」と関係者。しかし、「今回の騒動で狂ったサイクルは、簡単には戻らないだろう」と話している。
朝日新聞DEGITAL
これは実際養殖真鯛を扱う側からすると大きな問題になります。
真鯛に限らず養殖物は型がそろっているから使いやすいという利点が大きかったわけです。
レストランも飲食店も小売りも値段が決まっているので同じ大きさのものが使いやすいわけです。だから通常大きさを指定して選ぶのです。天然物なら自然なものなのでそんなこと言えないわけですが人工的なものなのでそのくらいはできるでしょうと思うわけです。
とはいうものの型を揃えるというのは結構難しい技術が必要です。
それを宇和島の業者は海をうまく使いながらうまくされていたということです。
しかし、本来強みであったところが生かせなくなってしまうということ。
使い勝手が悪くなるということは魚価にも影響するということでもあります。
今後も尾をひく問題です
養殖真鯛支援の動き
冒頭のニュースが出るとすぐに各方面から支援の声が上がりました.
回転ずし大手のくら寿司は19日、買い手が減少して苦境に立つ養殖業者の支援を始めると発表した。愛媛県の養殖業者5社から、養殖マダイ計約200トンを仕入れる。仕入れた養殖マダイは冷凍して保存する。その間、冷凍でもおいしく食べれる新商品を開発し、10月に店頭で販売する。
日経新聞.com
そんな国内最大の産地を救う形になったのは、米国資本の会員制倉庫型店「コストコ」。同社は「養殖の適地から仕入れた食材は品質も安心できる」とし、愛媛産養殖マダイの販売に乗り出した。
SankeiBiz
一般の人は支援があってよかったと思うのでしょう。確かによい動きだと思います。
いろんな声もあり得ますが状況判断の速さと実際の行動力(組織力)、話題の作り方の上手さは一定の評価できると思います。
しかし養殖業界ではこの先もまだまだ苦境が続きます。そしてそれを考えると手放しでは喜べない心境です。
在庫持った時点でもう損は確定しています!
魚を扱うものとしてこの問題を判断する時は一つ冷静にみていかないといけないと思います。
というのも魚というものは在庫過多になった時点でもう損失は免れないからです。億の単位だとしてもです。
なんとか少しでも損失を減らしたいと思っても一定の損失はもう覚悟しないといけないのです。
もちろん今回のような想定しきれない事態もありうるわけですが鮮度のあるもの、さらに活ものであればそれ以上に在庫を持つことのリスクが大きいです。
今回いろんな方面からの支援があったと聞きますが、結局値段は二足三文になっているはずです。ニュースで放送されるのでその広告料金くらいは割高にしてくれているでしょうが基本足元を見られた値段です。
ビジネスの世界そんなもんです。
あとは3分の1にしかならないものをどこまで引き上げられるかでしかありません。半分で終われば上等ではないでしょうか?マスコミの大きな力がどのくらいまで影響するかですね。
理由はともあれ魚を在庫過多してしまうことはいずれにせよ悪でしかないわけです。
まとめ
今回改めて在庫を持つ怖さを思い知らされました。
今回で言えば生産調整もう少し早く判断できる場面があったのかもしれません。
生鮮を扱うものとしては他人事ではなくいつ自分がそんな状況に陥るか分からないと思って毎日仕事に取り組んでいかないといけないと思いました。
ただ一つだけ言えることは
「人の力借りて後から感謝することはあっても事前に期待することだけはしたくない」
とあらためて思いました。
そんな事態を招かないように絶えず情報を取り入れることを怠らず周囲に気を配っていきたいと思います。
<終わり>
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